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第2話 夢と現実の間で...

작가: 琉球狸
last update 게시일: 2026-07-21 12:48:22

美奈子は、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。

憧れのスターが、自分の隣で、まっすぐにこちらを見つめている。

「え、でも……お忙しいんじゃ……」

「今日はもうオフです。それに――」

碧は少し声を落として、

美奈子だけに聞こえるように言った。

「こんな風に、飾らずに話せる人と飲むのって、実は貴重なんですよ」

その言葉の温度に、美奈子の胸の奥が小さく疼いた。

頬を赤らめる美奈子を見て笑顔になる碧。

「マスター!!彼女もおかわりをお願いします」

マスターは、オーダーに微笑みながら

颯爽にカクテルを出す。

「じゃあ、改めてこの出会いに乾杯」

美奈子は碧と乾杯をする。

それから、気軽に会話の雰囲気をエスコートしてくれる碧にお酒のペースが進み…

気づけばラストオーダーまで、碧と一緒にいた。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか?」

と席を立つ碧。

財布を取り出し、焦りながら…

「マスター、私、お会計…」

笑顔でマスターが一言。

「お会計は、お連れ様から頂いておりますよ」

「えっ!?」と碧を見ると、碧が一言。

「素顔の俺もカッコつけさせてくださいよ」

「行きましょうか」

碧が手を取る。

私は顔を真っ赤にしながら、

碧と一緒にBARをでた。

そこから、お酒が進み、

夢の時間がふわふわと意識を朦朧とさせる。

はっと目を醒めると、知らない天井が美奈子を迎える。

気付けば、来ていた衣服も床に散らばっている。

「はぁ、年甲斐もなく何やってんだろ…」

と横を見ると…!?

碧が寝ている。

「……嘘っ……でしょ?……」

美奈子は声にならない悲鳴を、

両手で口を押さえて押し殺した。

隣で規則正しい寝息を立てているのは、

間違いなく碧だった。

乱れた前髪の下、閉じた瞼。

テレビで観るときの完璧に整えられた姿とは違う、無防備な寝顔。

それがかえって「本物なんだ」という現実を、美奈子に突きつけてくる。

(どうしよう、どうしよう、どうしよう)

頭の中で同じ言葉がぐるぐると回る。

昨夜の記憶は、まるで靄がかかったフィルムのように、ところどころ途切れていた。

BARを出たこと。

タクシーに乗ったこと。

碧が笑いながら何か冗談を言っていたこと。

そして、ホテルの部屋に入ってからの記憶は――正直、断片的にしか残っていない。

美奈子はそっと布団の中を確認して、もう一度短く悲鳴を上げそうになった。

慌ててもう一度口を塞ぐ。

(私、四十四歳よ?娘が高校生なのよ?こんな、こんなこと……)

自己嫌悪と、それでもどこか否定しきれない甘い余韻とが、 胸の中でぐちゃぐちゃに絡み合っていた。

とにかく、まずは服だ。

床に散らばった自分の服を回収しなければ。

美奈子はできるだけ音を立てないようにベッドから抜け出そうとした。

その瞬間。

「……あれ、もう起きたんですか?」

背後から、寝起きの掠れた声が聞こえた。

美奈子の体がびくりと固まる。

恐る恐る振り返ると、碧が片肘をついてこちらを見つめていた。

寝起きだというのに、その眼差しには昨夜と変わらない、どこか人懐っこい光がある。

「お、おはよう……ございます」

美奈子は反射的に敬語になった。

シーツを胸元まで引き寄せながら、視線を泳がせる。

碧はそんな美奈子を見て、小さく噴き出した。

「なんで敬語なんですか。昨日はあんなに」

「あ、あんなにって、なに!何も言わないで!」

「言いませんよ、言いませんけど」

碧はくすくすと笑いながら、体を起こした。

シーツがずれて、鍛えられた上半身が露わになる。

美奈子は慌てて目を逸らした。

「あの……碧さん」

「碧でいいですよ、昨日もそう呼んでくれてたし」

「碧、くん……昨日のこと、その、私……」

言葉を選ぼうとして、うまく出てこない。

後悔しているのか、それとも―― 自分でも自分の気持ちがわからなかった。

碧はしばらく美奈子の様子を見つめていたが、 やがて優しい声でこう言った。

「後悔してます?」

直球すぎる質問に、美奈子は言葉を詰まらせた。

「それは……」

「無理に答えなくていいですよ。ただ、俺は」

碧はベッドのヘッドボードに寄りかかりながら、 どこか遠くを見るような目で続けた。

「後悔はしてません。むしろ、久しぶりに、素の自分でいられた気がして」

「素の……自分?」

「俺、いつも『Sky beatの碧』として見られるじゃないですか。 ファンの前でも、仕事の人の前でも、テレビの前でも。 昨日、美奈子さんが俺のこと見てて、でも全然、媚びたりしてなかったでしょ。 グラスひっくり返しちゃって、あたふたして。 あの反応が、なんか……新鮮だったんですよね」

美奈子は驚いて碧の顔を見た。

軽薄なイメージとは違う、思いのほか真剣な表情。

「それに」

碧は少し悪戯っぽい笑みを浮かべて、 美奈子の頬にかかった髪を、そっと指で払った。

「美奈子さん、可愛かったですよ。昨日も、今も」

「なっ……」

顔が一気に熱くなる。

四十四歳にもなって、こんな風に胸が高鳴るなんて、 自分でも信じられなかった。

「か、からかわないで。私はもう、いい歳のおばさんなんだから」

「おばさんって年齢じゃないでしょ、全然。 それに――」

碧は美奈子の手を取って、指先に軽くキスを落とした。

「歳とか、そういうの関係なく、 昨日の美奈子さんに、俺、惹かれたんですよ」

美奈子は言葉を失った。 心臓が痛いくらいに早鐘を打っている。 これは夢なのか、現実なのか、境目がわからなくなりそうだった。

「あ、あの……でも、私たち、住む世界が違うでしょう? あなたは芸能人で、私はただの……」

「事務のお仕事してる、シングルマザーですよね。 昨日、色々聞きましたよ」

「え、そんなことまで話したの、私」

「はい。娘さんが高校生だってことも、 十五年間ずっと一人で頑張ってきたことも」

美奈子は恥ずかしさで消え入りそうになった。

酔った勢いとはいえ、初対面の――しかもファンとして憧れていた相手に、 そんな身の上話までしてしまっていたなんて。

「ごめんなさい、変な話ばっかりしちゃって……」

「謝ることないですよ。むしろ、聞けてよかった。 美奈子さんがどんな風に生きてきたか、 少しでも知れたことが、俺には嬉しかったので」

碧の言葉には、芸能人特有のリップサービスとは違う、 静かな誠実さが滲んでいた。

美奈子はしばらく黙って、碧の顔を見つめた。

テレビの中の完璧なアイドルではなく、 今、目の前にいるのは、ただ一人の青年だった。

悩みも、寂しさも、疲れも抱えているであろう、一人の人間。

「私……」

言いかけて、美奈子は口をつぐんだ。

何を言おうとしたのか、自分でもよくわからなかった。

碧はそんな美奈子を急かすことなく、 ただ静かに待っていてくれた。

「私、正直、混乱してる」

ようやく美奈子は、絞り出すように言葉にした。

「昨日会ったばかりの人と、こんな……こんなことになって。 しかも相手は、テレビの中でしか会えないと思ってた人で。 夢みたいで、でも同時に、すごく怖い」

「怖い?」

「だって、これで終わりでしょう? 碧くんはこれから、東京に戻って、また忙しい毎日が始まる。 私はまた、いつもの日常に戻る。 きっと、これは……一夜限りの、綺麗な思い出ってやつなんでしょう」

言い聞かせるように、そう口にした。 そう思っておいた方が、傷つかずに済むと、 経験上、わかっていたから。

碧はしばらく黙っていた。

そして、ふいに美奈子の手をぎゅっと握った。

「そう思われても仕方ないと思います、正直。 俺の立場だと、簡単に『付き合いましょう』なんて言えないし、 言ったところで、美奈子さんを困らせるだけかもしれない」

美奈子は俯いた。 やっぱり、そうだよね――そう思いかけたとき。

「でも」

碧は美奈子の顎に手を添えて、そっと顔を上げさせた。

「俺、一夜限りのつもりで、昨日美奈子さんを誘ったわけじゃないんです」

まっすぐな瞳が、美奈子を捉える。

「連絡先、交換してもらえますか」

「え……」

「もちろん、無理にとは言いません。 美奈子さんにも、娘さんとの生活があるし、 これ以上関わったら、色々大変なことになるかもしれない。 それでも、俺は――」

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